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卒業講座 第1話
ROAD to DRIVE
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ROAD to DRIVE


第1話ペーパードライバー卒業は、まず相互理解から!

まずはご挨拶とレポートの目的やらなにやら

みなさん、こんにちは。
ドライブの楽しさを後方から優しく支援する「ROAD to DRIVE」。
今回の『ペーパードライバー卒業講座』は、わたくしどもの取り組みの一環として、ペーパードライバーのみなさんの背中を優しく押しちゃうべく、特別に発足したプロジェクトでございます。
もちろん、心理学的な側面からの解説もしつつ、そうだったのかとご納得いただけるものにしてゆく所存です。

問題の根本にあるのは価値観の相違!?

さて、この講座の栄えある第1回でまずお伝えしたいのは、ペーパードライバーからの卒業は、ペーパードライバーさん本人「だけ」ではなんともならないのだ、ということです。その横にいる普段運転をしている人、つまり身近なレギュラードライバーさんの助力があってこそ、ペーパードライバー卒業が成るということ。

ですから、まずはペーパードライバーの隣にいる、レギュラードライバーのあなたに向けて、レポートを始めようと思います。

ここで、モデルケースである佐藤さん夫妻に登場してもらいましょう。
レギュラードライバーのタケシさんと、ペーパードライバーのハルコさん夫妻です。
ある日、ハルコさんにペーパードライバーから卒業してもらいたいタケシさんが、こんなことを持ちかけております。

今の車、買い換えようと思っているんだ

あら、そうなの?

うん。息子のサッカーの送り迎えもあるし、君が運転しやすい車にしてもいいかな、って

えー、私に運転させるの?

せっかく免許を持っているんだから、これをきっかけにペーパードライバーから卒業するなんて、どうかな?

……でも、怖いのよねえ

今現在、日本のどこかの家庭で交わされていても不思議ではない会話ですよね。
タケシさんは、息子さんをフックにして「送り迎えとか便利になるよ」と言いたいみたいです。一方、 ハルコさんは、運転することへの恐怖という大きなネガティブ感情を持っているようです。

なんか、うまくいかない気配が濃厚ですよね。
こういう会話の行き着く先は、「運転は慣れてしまえば恐くない」と説得する夫と、「でもやっぱり怖い」と反論する妻の水掛け論です。
どうにもこうにもラチがあかないことは火を見るよりも明らかでしょう。

どうしてこうなってしまうのか。
それは、 普段運転するレギュラードライバーと、ペーパードライバーとの間に、「自動車を運転する」という行為の価値観について、大きな隔たりがあるからなのです。

運転を楽しく感じるベースには原初的な欲求がある

便利なもんは便利なんだから、価値観もへったくれもなかろうに!
そう一足飛びに結論に飛びつこうとする気の短いレギュラードライバーのあなた。
いけませんいけません。
そういう態度が多くのペーパードライバーを不幸にしているのです。

まず、運転を楽しく感じているレギュラードライバーの人たちは、じゃあ「何がそんなに楽しいのか」を、改めて考えてみましょう。
車を運転することで、自由に移動し、重いものも運べる、そういう行為を楽しいと感じる心の仕組みを、心理学では「万能感の確認」といいます。

ここでの万能感とは、「なんでもできる」ということではなく、自分の能力の限界を確認したい、そしてそれを超えたいという欲求のこと。これは、人間に備わっている、原初的な欲求です。
そして、自分の能力以上のことを可能にしてくれる運転という行為は、そうした万能感の確認に、まさに打って付けなのです。

一方で、ペーパードライバーさんたちは、運転する楽しさを「見つけられない」わけではありません。
単に、これまでの人生において「運転はそれほど重要ではなかった」というだけのこと。

たとえば、料理が大好きで、作った料理を誰かに食べてもらうことの喜びが何より「大事だ」と思っているような人。あるいは鉄道が大好きな人や、楽器の演奏に情熱を注いでいる人なども、「運転」の優先順位を低く感じているかもしれません。
もしくは、事故を起こさないという「社会的な評価」を得ることのほうが大事で、そのために運転を回避している、という人もいるかもしれません(社会への寄与は、社会的な動物である人間にとって、強烈な欲求のひとつです)。

つまり、 自動車の運転のほかに万能感の確認を行える「何か」を見つけていて、「ペーパードライバーでいる自分」に実は満足している人。それがペーパードライバーの真の姿にほかならないのです。
多くのレギュラードライバーたちが、ペーパードライバーに言う「ドライブ楽しいよ〜」とか、「せっかく免許があるのにもったいないよ〜」という誘い文句が、ペーパードライバーたちの心を揺さぶることができない理由はコレです。

モチベーションアップの方程式を利用する!

では、 どうやったらペーパードライバー卒業をサポートできるのか。
ここまでくれば、勘のいい方なら気がついたかもしれません。
そう、 ペーパードライバーに対して「新しい万能感の確認方法」として、運転をプレゼンすればいいのです。

そして、その際に大変有効的なのが、モチベーションをアップさせる、というアプローチです。

運転に対するモチベーションが高くない状態では、運転するという行為は注目されていません。たいして重要ではないことに対して、恐怖心を克服しようと思い立つことも、ありえません。
ですから佐藤夫妻の場合、まずは、 レギュラードライバーであるタケシさんから、奥さんのモチベーションを高めるためのアクションを起こさなくてはならないのです。

ということで、ここで心理学的にいうところの「モチベーションの方程式」をご紹介しましょう。
式は、こうです。

動因(内側から湧いてくる欲求/欠乏感や不便感を埋めたい)×誘引(インセンティブ/ご褒美)×期待(自分に対する期待/自分ならできる期待)=モチベーションアップ

おや?
どこにも「恐怖感への対策」というステップがありませんね。
そうなんです。
運転に対する恐怖感というのは、タケシさんが言うように、慣れれば次第に薄まっていくものなのです。運転したい、と思えれば、いくらでも恐怖心を払拭する手段はあるのです。
なので、そこに着手するのは、モチベーションアップの次のステップと心得ておきます。
ということで、この「モチベーションの方程式」を、少し詳しく解説しましょう。

最も重要なのは「不便の掘り起こし」

まず、「動因」です。
これは本人の内側から湧き出てくる衝動を引き出してあげましょう、ということ。動因を強く引き出してあげるだけでもモチベーションは高まる、という研究があるくらい、このパワーは強大です。

では、本人の内側にある衝動とは何か。
それはズバリ「不便さをなくしたい」ということです。

身近の好例として、通販番組のアプローチを思い出してください。
「この包丁なら、なかなか切れない冷凍イカも、ご覧の通りスパッと切れます!」
こんなようなフレーズ、聞いたことないですか?
実は、普段冷凍イカを切る機会なんてあまりありませんが、「こういう不便なシーンでも、この包丁があれば大丈夫なんですよ!」と、想像させます。
不便さを掘り起こして意識させ、その上で解決策を提示する。
こうすることによって「あら、この包丁買おうかしら」と、動因が形成されるのです。

ハルコさんだって、息子の送り迎えのために電車に乗ったり、よそのお宅の車に同乗させてもらう不便さは、感じています。感じてはいますが、本人は「そういうものだ」と受け入れている可能性が高いのです。
だから、まず不便さを再認識させることから始めるのがポイントなんです。

さらに、 追い打ちを掛ける手として、「誘引」があります。
誘引とは、メリットの提示のこと。
ペーパードライバーから卒業すれば、こんないいことがあるよ、と訴えかけるわけです。

しかし!
ここで注意したいのは、誘引は乱発してはいけない、ということです。
メリットを幾つも幾つも羅列しても、効果は薄いのです。
個数をぐっと抑えて、そのメリットに関連するあれやこれやを「想像させ、染みこませる」ことが大事なのです。
つまり、イメージさせる時間が必要だ、ということです。

そして最後は、ちょっとした「期待」感を振りかけます。
ワクワクさせるのです。
これで、モチベーションアップの方程式は完成します。

モチベーションアップのための一例はこうだ!

この方程式を活用して、タケシさんのセリフをちょっと補正してみましょう。
ポイントを「息子さんの送り迎え」から少しズラして、「まとめ買いに便利」としてみます。話題のハードルも少し下げてみよう、という意味も含めております。ほら、教育方針問題とか、ややこしい方に飛び火したら大変ですからね。

少し遠くに安くて小綺麗なスーパーがあるって言ってたよね。近所の奥さんが安く買えて嬉しがってたのを、羨ましいって言ってなかったっけ?
(不便さの掘り起こし)

運転できれば、安く買えるのはもちろん、自分の都合のいい時間にサッと買いに行けるからさ、 足りない足りないって言ってた自分の時間にも、余裕が生まれるんじゃないかな。
(新たな不便さと、その払拭)

逆に、時間のあるときにまとめて買っておければ、あとからメニュー決めるのも可能だしね。
(さらなる不便の払拭)

息子もたくさん食べられて喜ぶだろうし、君も腕の振るい甲斐があるんじゃない?
浮いた予算でちょっと凝った調味料買っちゃったりさ。

(期待感を振りかける)

いかがでしょう?
「こんないいことがあるよ!」というアプローチではなく、さりげなく不便さを掘り返してみましょう。
そして、ワンセットで解決策を提示してあげれば、それがモチベーションに繋がるはずです。
メリットの提示、すなわち誘引は数を絞ります。
安い店で「安く買える」のは自明の理なので、ここでは「時間を自由にできる」というところをポイントとしました。
時間が自由に使えれば、あんなこともこんなこともできるよ、と言いたくなるのが男性のサガですが、ぐっと堪えます。
メリットが染み込むための時間が大事だからです。
ここでは、だから、敢えて具体例は出さずにそっと見守ります。
で、最後に「息子の喜ぶ顔」を、実現した後の期待感として提示するのです。

説得ではなく相互理解

ペーパードライバーには、ペーパードライバーでい続ける確固たる理由がある。
それを理解してくださいましたでしょうか。
運転以外に優先する事柄があるからこそ、ペーパードライバーなのです。

ですから、一緒に暮らすパートナーをペーパードライバーから卒業させたいと思うのなら、まずはその心のうちを理解してあげなくてはいけません。
説得するのではなく、お互いに理解を深め、その上で新しい価値観として、運転の楽しさをプレゼンしていくのです。

ということで、今回はこれまで。
次回はよくある「運転に対する恐怖心」の仕組みを解説して、「なーんだ、そんなことが原因だったのか!」と、ペーパードライバーさんの心を軽くしていきます。
主に、ペーパードライバー向けにお話を進めてまいりますよ。
恐怖心の湧くシステムを理解すれば、それに対してどんな手を打てばいいのか、わかりますからね。

それでは次回をお楽しみに!

テキスト/ドライブトーク研究室(クラッチ渡辺研究員)
監修/神奈川大学教授・臨床心理士 杉山 崇