亡くなる2年前の春、父に、車でどこかに行かないかと声をかけると、昔勤めた小学校を見に行きたいと言うのです。父は長年Y市の小学校に勤めながら、わたしたち兄弟3人を育ててくれたのです。クラス担任をしていた頃の学校の校区に入ると、ここはAちゃんの家だとか、ここの店の子を教えたなどと言っては往時を偲んでおりました。町の様子は変わったろうに道をよく覚えていて、びっくりしました。父が勤めた学校巡りの最後に、校長を務めて退職した小学校に着くと、少し車から降りたいと言い、危なっかしい足どりで校門の前まで行きました。
校庭の満開の桜が、20数年ぶりに訪れた父に、よく来てくれたねと語りかけているようでした。