私には単身赴任中の父がいる。私が生まれた時から単身赴任を続けている父が。年に数回しか父とは会わず、会っても他人のようによそよそしく接してしまう。そんな私も二十歳を過ぎ、立派にマイカーを運転する年齢に。父も父で初老と言われる年齢になった。ある日、父の帰省中、何を思ったか、成り行きで二人きりで室戸岬へと小旅行に出かけることに。車中では気まずい沈黙が何度か訪れるも、晴天の室戸岬の絶景に二人共とも饒舌になり始める。広大で青々とした太平洋を二人で眺めていると、ふと父が呟くように言った。「またお前の運転でどこかに行きたいな」
失われていた父と息子の時計の針がゆっくりとだか動き始めた。