富士宮市にある遠い親戚を尋ねた帰りのこと。道に迷った父は、「お、今度はこっちへ行ってみるか」などと独り言を言い、くねくねした道路を走った。「こういうふうに知らないところを、ただ走るのって好きなんだ」と父。私は、ふーん、と気のない返事をしたものの、その後、何度も父の言葉を思い出すことになる。エジプトで、モロッコで、マケドニアで。私は大学時代、バックパッカーだったのだ。こういうふうに知らない土地を、目的もなく歩くのが好きなんだ。お父さん、これは遺伝ですか?と問いかけたいところだが、もう父から答えをきくことはできない。2011年にこの世を去った父は、あの世で冒険をしているのだろうか。