普段から寡黙な父親がなんとなく苦手だった大学2年の春、実家の名古屋に帰省して東京に戻る数日前に、父親が東京に仕事で車で行くから一緒に乗せていってくれることになった。始業式ギリギリまで実家にいるつもりだったが、半ば強引に連れ出されたと言ったほうが正解に近いかもしれない。車中でもあまり会話がなくなんとなく気づまりな雰囲気だったが、夜中1時頃富士川SA付近で見た富士山と満月と桜の三重奏が幻想的でとても美しく、「これをお前に、見せたかった」とつぶやくように話す照れくさそうな父の顔とともに、今でも忘れられない一度きりになってしまった春の景色です。