祖父が癌になったと聞いて実家に帰った。チャキチャキの江戸っ子な祖父が車椅子に座り言葉少なに俯く姿にふと昔の約束を思い出す。「お台場なんて何にもねえとこだ」という祖父に「今は何でもあるよ、今度一緒に遊びに行こうよ」結局果たせないままだ。板前だった祖父の愛車はダットラ。
いつも荷台に乗って築地市場に出掛けていた。
初心者マークを3枚も貼り付けて恐る恐る運転する私の隣で、あぶねぇあぶねぇと嘯く祖父は昔のままで、レインボーブリッジを渡り切る頃にはすっかり笑顔になっていた。
あの後まもなく祖父は天国へ行ってしまったけれど
あの時のこと嬉しそうに話していたと、母が話していた。