幼き頃の話。
父の運転で早朝から出かけ、私と兄が後部座席で目を覚ます頃、SAの富士川楽座に着く。展望ルームで、朝焼けに浮かびあがる富士山の壮麗な姿に母は眼を輝かせていた。
時が過ぎて、父も母も病気や加齢で腰が重くなってしまった。すると兄が、母の誕生日近くに富士山へのドライブを計画してくれた。何年か振りの展望ルームで富士山を眺める母の幸せな表情は、朝陽よりも眩しかった。
帰りはなんと、父が運転すると言いだした。久しぶりの高速道路の運転に少し緊張しながら、それでも家族を乗せて走る父の頼もしい後ろ姿を見ながら、母は幸せそうに眼を細めていた。それはまるで富士山を眺めるように。