父は透析に通っていて体調もすぐれなかったのだが、何故かあの時はとても鋸山に行きたがった。今まで家族で出掛けることすらほとんどなかった。『アワビが食べたいな』『ロープウェイで山を見てもいい眺めだぞ。』そんな風に出発の朝、父が私達の前で呟いた。どんどん身体が不自由になり、細くなっていく父を車に乗せ出発した。ドライブは腰痛もちの父にとってはきつそうだったが、到着した時のサッパリとした笑顔は忘れられない。宿では父の望み通りアワビをいただいた。あの日の父の満足そうな表情が忘れられない。父はその後、3ヶ月で亡くなった。あの時の父の顔、全て忘れられません。